■名作列伝019

劇団ラニョミリ 第19回公演

三億年クリーパーR

 

日時:2019年9月6日~8日

場所:ラゾーナ川崎プラザソル

 


―漆黒の艶やかな体を輝かせ、台所を疾走する虫あり。人々はその虫を忌み嫌い、その名を呼ぶことすら嫌悪した。故に彼らは、「G」と呼ばれる。

民明書房刊『日本昆虫奇譚 第五巻 「G」の伝説』より 

ある民家の片隅。そこではクロゴキブリとチャバネゴキブリが、日々強力になる殺虫剤についてぼやいていた。そこに現れたのが、アメリカからやって来たマダガスカルゴキブリ。マダガスカルはクロとチャバネのやり取りを見るなり一言、「情けない」と言い放った。サムライに憧れて海を渡ってきたというマダガスカルの目には、殺虫剤を目の前にしてぼやいているだけのクロとチャバネの姿は不甲斐ないものとして映ったのだ。

3匹の間に険悪な空気が漂う中、隣家からワモンゴキブリが帰ってきた。掃除嫌いのゴミ屋敷だという隣家の住人に自らの立場を説明し理解を得ようとしたワモンだったが、その結果殺虫剤を吹き付けられて息も絶え絶えの帰還となってしまった。

 

実はワモン・クロ・チャバネの3匹は「ゴキブリ解放同盟(ゴ解同)

」のメンバー。リーダーであるワモンを中心に、人間たちによる「いわれのない迫害」に対して自らの立場を訴えていく活動を続けていたのである。ワモンが隣家に行ったのもゴ解同の活動の一環だったのだが、やはりゴキブリが人間の理解を得ることは難しく殺虫剤やゴキブリホイホイなどによる人間たちの「迫害」は止まることがなかった。

そんなワモンの登場に感動を隠し切れないのがマダガスカル。アメリカでゴ解同の活動を耳にしたマダガスカルは、差別があふれる母国を捨ててサムライの国・日本に渡ってきたのだった。そんなマダガスカルの目には、クロやチャバネの姿は甘んじて差別を受け入れているようにしか見えなかった。

 

 

 

差別される側にも問題があるというマダガスカルの意見に対し反論するクロ。そんな中チャバネは、ゴキブリ同士の中にも差別はあると訴え出た。体も小さく、色も茶色いチャバネはゴキブリたちの中でも下に見られているというのである。そしてチャバネは、人間から新型の殺虫剤ではなく「ハエハエカカカのキンチョール」を向けられた経験を引き合いに、自分は人間からもゴキブリとして認められていないと自らの境遇を嘆いた。しかしクロはそんなチャバネに対し、ハエや蚊と同じように扱われることを嫌がるその気持ち自体が差別なのではないか、とチャバネに矛盾を突きつけた。

差別されるものの中にも差別があり、それがまた次の差別を生む。結局差別はなくならないのか。諦めにも似た空気が漂う中、人間の足音が近づいてきた。現れた人間に対し、再び自らの主張を訴えるワモン。しかしゴキブリの言葉が人間に通じるわけもなく、人間からの答えはやはり…殺虫剤。

 

殺虫剤を吹き付けられて逃げ惑う4匹。そんな中でクロがゴキブリホイホイに捕われてしまった。捕われたクロの姿を目の当たりにしつつも、ホイホイに仕掛けられた誘引剤の匂いにつられてチャバネもホイホイに向かってしまう。チャバネを助けようとマダガスカルが止めに向かったが、バランスを崩して2匹ともホイホイの中に落ちてしまった。捕われた仲間たちを前にして苦悶するワモン。実はワモンには隠された過去があった。かつてワモンはホイホイに捕われたゴキブリたちを救出した伝説のヒーローだったのだ。そして、そのワモンに助けられたのが幼い頃のチャバネゴキブリだった。

幼いチャバネゴキブリたちを救い出し、颯爽と飛び立ってゆくワモンの後姿に憧れ続けてきたチャバネ。その熱い思いが、ヒーローの名を捨てて一匹のゴキブリとして生きるワモンの心に火をつけた。

生き方を問われたとき戦わなければならないときがある。今、再びワモンはヒーローとして捕われた仲間のため、ゴキブリの解放のために立ち上がった―。

 


撮影 駒ヶ嶺正人