
―国旗国歌法が制定されて16年が過ぎた。でも、日の丸や君が代が国旗でも国歌でもなかった時代がつい最近まであったということすら知らない人は多い。―

とある高校の卒業式。
音楽講師として勤め始めたばかりの元シャンソン歌手の仲ミチルは、朝から伴奏の練習に励み、緊張のめまいで倒れ保健室に。
ところが。
「国歌はとにかくドアタマです。ご列席の都議会議員や教育委員会の方々もご一緒に歌われるわけですし…」
という校長の言葉に、伴奏者には並々ならぬ期待がかかっていることを知る。

「イヤですよ、戦争のシンボルだった歌、歌うなんて…」
「我が国を愛し、我が国に生まれたことを誇りに思っちゃいけないんですか!」
「ほぉんと、大変ですよねぇ……」
次々に保健室に現れる推進派・賛成派・擁護派・反対派・無関心派。
刻一刻と卒業式は迫る。
「先生、私、ずっと話を聞いとってね、これはどえりゃあ問題なんだって、今やっとこさわかったわ…」

「大変です。校長先生が消えました。」


撮影 駒ヶ嶺正人